2026 年 8 月 25 日、Anthropic は Claude のメモリ機能を更新しました。大きな変更は、Chat とクラウド版 Cowork が同じメモリを使うようになったことです。Chat で積み上げた仕事の前提を Cowork へ持ち込み、Cowork のタスクで新しく分かったことを次の Chat で使えます。
便利さだけを見ると「説明を繰り返さなくてよくなった」で終わります。しかし、会社で使うなら見方が変わります。案件名、担当者、文章の好み、進行中の仕事といった文脈が、会話をまたいで残り、Chat と Cowork の双方で使われるからです。何を保存し、誰が有効化を決め、いつ見直すかまでが導入判断に入ります。
この記事では、Anthropic の公式発表とClaude 公式ヘルプで確認できた範囲をもとに、Claude のメモリ設定、記憶の削除、機微な話題、Team / Enterprise の管理者制御を整理します。実際に確認していない画面の位置や、公式に書かれていない保証は補いません。
何が変わったのか
今回の変更は、次の 4 点に集約できます。
- Chat とクラウド版 Cowork のメモリが共通になった
- 会話の終了後ではなく、会話中にメモリが更新されるようになった
- Settings > Memory の Topics で、保存内容を読んで、直して、削除できる
- 既定では除外される機微な話題を、希望する利用者だけ保存対象にできる
以前のメモリは、会話履歴から要点を定期的にまとめる体験でした。新しい方式では、会話中に個別のトピックを保存します。保存される単位と更新のタイミングが変わり、利用者が内容を直接管理できるようになりました。
企業にとって重要なのは、メモリの利用可否と機微な話題の保存可否が別の制御になっている点です。Team / Enterprise では、組織側が許可したあと、各利用者がメモリを有効にします。さらに機微な話題を保存するには、別の組織側の許可と、利用者本人の選択が関わります。全社で 1 個のスイッチを入れれば一律に動き出す機能ではありません。
FIXIT管理者がメモリを許可したら、その日から全員の会話が記憶される?
Kanameいいえ。利用者が自分で有効にするまでオフです。二段階で考えます。
FIXIT機微な話題も同じスイッチ?
Kaname別の制御です。運用に乗せるなら、混ぜずに判断手順を作ります。
Chat と Cowork でメモリが共通になるとは何か
Cowork は、Claude に複数ステップの仕事を任せるための作業モードです。公式ヘルプでは、依頼を分析して計画し、複数の作業へ分解できる依頼ではサブタスクへ分け、クラウド上の隔離環境でコードやシェルコマンドを実行し、成果物を返すものと説明されています。単発の問いに答える Chat に対して、ファイルを扱う調査や資料作成など、まとまったタスクを進める位置づけです。
共通メモリになると、Chat で説明した内容がクラウド版 Cowork の開始時点から使えます。公式発表が挙げる例は、四半期の優先事項、プロジェクトの状況、上司が好む報告の書き方、会議の人数や開催地です。逆方向も同じで、Cowork の作業中に出てきた文脈が Chat へ戻ります。
これまでなら、依頼のたびに次のような前置きを繰り返していました。
- 自分の役割と担当範囲
- 案件の現在地と次の締切
- 社内で使う用語や指標の定義
- 読み手と文書のトーン
- 過去に決めた方針と避けたい案
この説明を減らせるのが、共通メモリの直接的な価値です。数か月の Chat で作られた文脈から Cowork のタスクを始められるため、毎回ゼロから概要を書く必要がありません。Cowork が作った成果物を見て Chat で相談するときも、同じ前提から話を続けられます。
ただし、対象は クラウドで動く Cowork です。公式ヘルプは、利用者のコンピューター上でローカル実行される Cowork セッションではメモリを使わないと明記しています。「Cowork ならすべて共通」と広げず、実行場所を含めて説明してください。
また、共通になるのは「メモリ」です。すべての過去会話が常に丸ごと Cowork へ挿入される、Chat と Cowork の画面やセッションが同一になる、と公式が説明しているわけではありません。保存されたトピックが両方で使われる変更として理解するのが正確です。
記憶はいつ更新されるのか
新しい Claude メモリは、会話が進む間にトピックを追加・更新します。 会話が終わってからまとめて要約する方式ではありません。公式発表は、プロジェクトの締切が 9 月へ動いたと話せば、次の会話ではその変更をすでに知っている例を示しています。
ここでの「リアルタイム」は、会話中に保存処理が進むという意味です。何秒以内に必ず反映される、といった時間保証は一次情報にありません。企業の手順書には「即時反映を保証」と書かず、「会話中に更新される」と記載するのが妥当です。
利用者は、Claude に「これを覚えて」と明示して保存させることもできます。一方、通常の会話から Claude が自ら保存することもあります。したがって、業務運用では「覚えてと頼んだ情報だけが残る」とは考えられません。入力した内容のうち、今後の協働に役立つ文脈がトピックになる可能性を前提にします。
この違いは、訂正のタイミングにも効きます。案件の旧名称、古い担当者、変更前の締切が残ったままだと、次の Chat や Cowork で使われます。案件名、担当者、締切を変更したときは、会話で伝えたあとに Topics を見て内容を確かめる流れにしておくと、古い前提が複数の作業へ広がるのを防げます。
なお、公式ヘルプにはメモリを止める方法として Pause memory と Reset memory が記載されています。
| 選択肢 | 既存のメモリ | 停止後の動作 | 元に戻せるか |
|---|---|---|---|
| Pause | 保持する | メモリを使わず、新しく保存しない。停止中の会話は再開後も追加しない | 再開できる |
| Reset | プロジェクトのメモリを含め削除する | 再度有効にすると、以前のメモリを持たない状態から始まる | 削除は元に戻せない |
一時的に使わないだけなら Pause、保存済みの内容ごと消して最初から始めるなら Reset です。両者を「メモリをオフにする」と一括りにすると、削除の有無を誤ります。
記憶の中身を見る・直す・消す
新しいメモリ体験では、Settings > Memory の Topics に Claude が覚えている内容が並びます。公式ブログではトピックごとの短いファイル、公式ヘルプでは個別のトピックとして説明されています。対象を選んで読み、編集アイコンで直し、Delete で削除できます。
修正は、その後のすべての会話へ反映されます。たとえば社名の旧表記を 1 つのトピックで直すと、以後の会話では修正後の名称が使われます。Chat と Cowork のメモリが共通になったからこそ、訂正箇所も 1 つです。
操作の目的は 3 つに分けると迷いません。
- 「読む」では、何が継続的な前提として保存されているかを把握する
- 「直す」では、役割、名称、締切、方針など、古くなった内容を更新する
- 「消す」では、今後の会話で使う必要がない、または残すべきでない内容を削除する
チャットから Claude に、覚える内容の追加・変更・忘却を依頼する方法も公式ヘルプにあります。ただし、企業の定期点検では Topics の一覧を見て確認するほうが、対象を漏らしにくいでしょう。これは製品仕様ではなく、運用上の提案です。
削除については注意点があります。公式ヘルプによれば、元の会話が期限切れになったり削除されたりしても、そこから作られた関連メモリは自動では消えません。会話履歴の削除と、Topics にある個別メモリの削除は別に扱う必要があります。反対に、組織の Owner が組織レベルでメモリをオフにすると、組織内の全利用者の既存メモリは直ちに完全削除されます。
つまり、削除には少なくとも 3 つの粒度があります。
- 個別の Topic を削除する
- 利用者が Reset memory ですべてのメモリを削除する
- 管理者が組織レベルでメモリをオフにし、全利用者のメモリを削除する
どの粒度で何が消えるかを確認せずに操作すると、必要な記憶まで失います。組織レベルの無効化は、単なる一時停止として使わないでください。
機微な話題はどう扱われるか
Claude は既定で、個人的または機微な話題をメモリへ保存しません。公式発表と公式ヘルプが例示するカテゴリは次の 6 つです。
- 健康
- 人種
- 民族
- 宗教的信念
- 政治
- 性自認
これらを繰り返し説明したくない利用者は、Settings > Memory の Include sensitive topics in memory を有効にできます。有効化後は、機微な話題が保存されるたびにメッセージボックスの上へ通知が表示され、保存内容の確認や設定の変更ができます。
重要なのは、有効化する前の会話が遡って保存されないことです。トグルをオンにした時点から先が対象です。トグルはあとからオフにできます。公式ヘルプでは、通知を拒否した場合、または後から設定をオフにした場合、すでに保存された機微な項目もメモリから削除されると説明されています。
| 比較項目 | 既定の状態 | 機微な話題を含める設定をオン |
|---|---|---|
| 6 カテゴリの保存 | 保存しない | 有効化後の会話から保存対象になる |
| 過去の会話 | 対象外 | 遡って保存しない |
| 保存時の通知 | 機微な話題を保存しないため対象外 | 保存のたびに通知が表示される |
| 後からの切り替え | オンにできる | オフにでき、保存済みの機微な項目も削除される |
| 常に保存されない情報 | 保存しない | トグルをオンにしても保存しない |
最後の行が特に重要です。公式ヘルプは、政府発行の識別番号、犯罪歴、金融口座番号、在留資格を、設定にかかわらず保存しない情報として挙げています。公式ブログには、機微な識別番号、犯罪歴、在留資格、Acceptable Use Policy に反する内容が挙げられています。機微な話題のトグルは「個人情報を何でも保存する許可」ではありません。
一方で、製品側が既定で除外するカテゴリだけを、会社の機密区分として使うのも不十分です。顧客名、未公開の案件、契約金額、社内の評価、障害情報、ソースコードなどは、6 カテゴリに該当しなくても会社にとって機微です。Anthropic の機微トグルと、自社の情報分類・入力ルールは分けて設計してください。
注意
「機微な話題を含める」がオフでも、会社の機密情報全般が自動で除外されるとは限りません。公式が既定の除外対象として挙げるのは、健康、人種、民族、宗教的信念、政治、性自認などです。
プラン別の扱い
Free / Pro / Max と Team / Enterprise では、メモリが使えるかではなく、誰が利用開始を決めるかが異なります。
| プラン | メモリの初期状態 | 組織管理者の制御 | 利用者の操作 |
|---|---|---|---|
| Free / Pro / Max | web・デスクトップ・モバイルで既定でオン | 個人向けのため組織レベルの制御は記載なし | Settings > Memory で管理する |
| Team / Enterprise | 組織で利用可否を管理し、個々の利用者は有効化するまでオフ | Owner / Primary Owner が組織でメモリを許可する | 許可後も、各自がメモリを有効にする |
Team / Enterprise の流れは二段階です。
- Owner または Primary Owner が、組織でメモリを利用可能にする
- 各利用者が、自分のメモリを有効にする
組織で許可しても、個々の利用者が選ぶまでメモリはオフです。さらに、メモリ本体を許可しても機微な話題は有効になりません。組織側が機微な話題を許可した場合でも、各利用者が自分でオプトインするまでは該当カテゴリが保存されません。
管理者ができることと、できないことも分けておきます。公式ヘルプによれば、Owner はメモリと機微な話題の組織レベル制御を変更できますが、利用者個人のメモリを閲覧・編集できません。利用者は自分の Topics を確認・削除し、機微な話題の設定をオフにできます。
ただし、個別メモリの画面上の可視性と、組織の保持・エクスポートは別です。メモリ項目は標準の会話履歴エクスポートに含まれ、組織のデータ保持方針が適用されます。管理者による組織レベルのオン・オフは監査ログに残りますが、個々の利用者によるメモリ編集は記録されません。
また、公式ヘルプでは、HIPAA、公共部門、カスタムのデータ保持契約がある組織ではメモリを利用できないと説明されています。契約条件が個別化されている企業は、一般的な Team / Enterprise の説明だけで判断せず、自社契約を確認してください。
Claude Code を含む法人契約全体の選び方は、Claude Code の法人向けプランガイドで整理しています。今回のメモリ設定は、その中でも利用者ごとの継続的な文脈に関わる統制として切り出して考える必要があります。
企業で使う前に決めておくこと
ここからは Anthropic が保証する製品仕様ではなく、上記の仕様から考える企業運用の提案です。メモリを許可するかどうかだけでなく、次の 5 点を決めてから利用者へ案内すると運用が安定します。
1. 誰が有効化を判断するか
Team / Enterprise では管理者が利用可否を決めます。判断者を単に「情シス」とせず、情報セキュリティ、法務、業務部門のどこまで確認するかを決めます。メモリは Chat と Cowork の利便性を上げる一方、会話をまたいで使われる情報を増やします。利用目的、対象部門、扱うデータを確認したうえで判断してください。
最初から全社一律にせず、機密度の低い業務から対象を区切る方法もあります。ただし、部門単位で制御できると公式が保証しているわけではありません。段階導入をするなら、利用者やワークスペースをどう分けられるかは、自社環境で別途確認が必要です。
2. 機微な話題のトグルを許可するか
メモリ本体と機微な話題を一緒に承認しないことが重要です。健康などの情報を継続的に使う合理的な場面があるか、保存による負担軽減とリスクが釣り合うかを別に評価します。
許可する場合も、「任意だから各自に任せる」だけで終わらせず、保存されるたびに通知が出ること、過去へ遡らないこと、オフにすると保存済みの機微な項目が削除されることを案内します。利用者が自分で設定を選び、見直せる状態にします。
3. 顧客・案件情報が Topics に残ることをどう扱うか
会社にとっての機密は、Anthropic が例示する個人的な 6 カテゴリより広範です。案件名や顧客担当者、未公開機能、見積金額、障害の経緯も、会話中に今後役立つ文脈として保存される可能性があります。
入力禁止情報を「個人情報」だけにせず、次のように業務に即して定義します。
- 顧客との契約上、外部 AI へ入力できない情報
- 公開前の事業計画、価格、組織変更
- 認証情報、秘密鍵、金融口座番号などの識別・アクセス情報
- 人事評価、健康情報、相談記録
- 障害調査中の個人データや未修正の脆弱性
生成 AI 全体の入力ルールとチェック項目は、生成 AI の情報漏洩対策も参照してください。メモリだけを独立した例外にせず、既存のデータ分類へ組み込むほうが現場で迷いません。
案件ごとの文脈を混ぜたくない場合は、Projects を分離の単位として使えます。公式ヘルプによれば、各 Project は独立したメモリ空間と専用のプロジェクト要約を持ち、ほかの Project や Project 外の Chat とは文脈が分かれます。案件 A と案件 B を別の Project にすることで、少なくとも製品が用意するメモリ空間の境界を案件に合わせられます。
一方、特定の会話を最初からメモリにも会話履歴にも残したくないときは、シークレットチャットを使います。通常の会話を一時的に記憶させたくない場合は Pause memory、すでに Topics に保存された内容を後から消す場合は個別削除です。目的はそれぞれ「最初から保存しない」「一時的に新しく保存しない」「保存後に消す」と異なります。
ただし、Team / Enterprise のシークレットチャットは標準のデータエクスポートに含まれ、組織のデータ保持方針に従います。利用者のメモリと会話履歴に残らないことを、組織側にも記録が一切残らないという意味へ広げないでください。
4. 退職・異動・案件終了時に棚卸しする
Topics は時間とともに増え、内容が古くなります。保存内容を誰が、どの頻度で、どんな契機に見直すかを決めます。おすすめの契機は、四半期の区切り、案件の終了、所属変更、長期休暇、退職手続きです。
退職時に何が管理者から見えるかを推測してはいけません。公式ヘルプでは、Owner は個人のメモリを閲覧・編集できない一方、メモリは標準の会話履歴エクスポートに含まれると説明されています。利用者による削除、組織のデータ保持、エクスポートの取り扱いを、自社の退職手順と契約条件に照らして整理します。
なお、監査目的で Chat や Cowork の記録を取得する仕組みはメモリとは別です。Claude の Compliance API とローカルセッションでは、Enterprise でセッションのトランスクリプトを取得する範囲を解説しています。メモリの Topics を監査ログの代わりにしないでください。
5. 正式な記録を残す先と使い分ける
メモリは、Claude が次の仕事で文脈を使うための機能です。稟議、契約、設計判断、障害報告の正式な記録先として設計されたと、一次情報は説明していません。
正式な決定は社内 Wiki、チケット、議事録、リポジトリなど、責任者と変更履歴が分かる場所へ残します。Claude のメモリには、作業を進めるための前提を持たせます。入口で機密情報を検査する仕組みが必要なら、Claude Enterprise の inference hooksも選択肢です。メモリは入力を止める機能ではないため、役割を混同しないでください。
運用に乗せるなら、最低限のチェックリストは次の形になります。
- 組織でメモリを許可する責任者を決めた
- 利用者が自分で有効化するまでオフであることを周知した
- 機微な話題の組織許可を、メモリ本体と分けて判断した
- 自社の入力禁止情報を 6 カテゴリとは別に定義した
- Topics を確認・修正・削除するタイミングを決めた
- 案件終了、異動、退職時の棚卸し手順を決めた
- 正式な記録を残すシステムとメモリの役割を分けた
- 組織レベルでオフにすると全員のメモリが削除されることを確認した
AI ツールの導入で難しいのは、機能をオンにすることではなく、誰がどの判断をするかを現場の手順へ落とすことです。メモリを含む Claude の利用ルールを自社の業務に合わせて整理したい場合は、AI 開発ツール導入支援で伴走しています。対象部門や扱うデータの切り分けから相談したい方は、お問い合わせからご相談ください。
まとめ
Claude の新しいメモリは、Chat とクラウド版 Cowork の間で同じ文脈を使います。会話中にトピックが更新され、Settings > Memory の Topics から保存内容を読み、直し、削除できます。機微な話題は既定で除外され、利用者が明示的に有効にしたあとの会話だけが保存対象です。
個人利用では、説明を繰り返す手間が減ることが主な利点です。企業利用では、それに加えて管理者と利用者の二段階の有効化、機微な話題の別制御、顧客・案件情報の棚卸し、正式な記録先との使い分けが判断材料になります。
まず決めるべきなのは「便利そうだからオンにするか」ではありません。誰が許可し、何を残さず、いつ Topics を見直すかです。その 3 点を手順にできれば、共通メモリを継続的な仕事の文脈として使いやすくなります。

