プロジェクト概要
学校法人の公式サイトについて、外部の Web 制作会社へ委託していた運用保守を、学内の教職員が自ら担える状態にするまでを支援しました。
対象となったのは、デジタル分野の科目を担当する教職員 2 名です。技術的な素地はあるものの、Web サイトの運用を日常業務として担った経験はない状態からの着手でした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| クライアント | 学校法人 (職員 100 名規模) |
| 対象者 | 教職員 2 名 |
| 対象システム | WordPress で構築された公式サイト |
| 支援期間 | 約 1 ヶ月半 |
| 支援前の保守外注費 | 月額 30 万円 (年換算 約 360 万円) |
| 支援後の保守外注費 | 0 円 |
クライアントの課題
着手前の状況は 3 点に整理できます。
外注費が固定費として毎月かかり続けていた。 公式サイトの保守を外部の Web 制作会社へ委託しており、月額 30 万円が発生していました。年換算で約 360 万円です。更新の頻度に関わらず一定額がかかる契約でした。
Web の運用を日常業務として担う体制が学内に無かった。 デジタル分野を教える知見を持つ教職員は在籍していましたが、教育と運用は別の業務です。誰が担うのかが決まっていませんでした。
修正のたびに待ち時間が発生していた。 文言の差し替えや画像の入れ替えといった小さな修正でも、外注先へ依頼して対応を待つ必要がありました。学内では「これくらいなら自分たちでやりたい」という声が出ていた一方で、着手できる状態にはありませんでした。
費用の問題としてだけ見ると「安い委託先を探す」が解決策になりますが、待ち時間の問題は委託先を変えても残ります。費用と待ち時間を同時に解くために、内製化を選択しました。
アプローチ
最初の 2 週間 — 環境を整える
研修から始めませんでした。既存のコードを整理し、AI を活用しやすい状態にするところから着手しています。
理由は単純で、環境が整っていない状態で操作方法だけを教えても、受講者の手元では再現できないからです。指示を出しても意図した箇所が直らない、直したつもりが別の場所を壊す、といったことが続くと、受講者は「うまくいかないのは自分の理解が足りないからだ」と受け取ります。そこで手が止まります。
この 2 週間で行ったのは、既存コードの整理と、手元で安全に試せる状態の用意です。失敗しても本番に影響しない場所で試せることが、その後の伴走の前提になりました。
続く 1 ヶ月 — 実際の課題を題材にハンズオンで伴走
環境が整ったところで、教職員 2 名へのハンズオンに移りました。ここで扱った題材は、汎用の練習課題ではなく、実際に抱えていた修正依頼そのものです。
具体的には次の 2 点を一緒に整理しました。
- AI への指示の出し方。 何をどこまで書けば意図どおりに動くのか、逆にどう書くと外れるのかを、実際の修正を通して確かめました。
- 出てきたコードの確認方法。 生成された内容をそのまま反映するのではなく、何を見て良し悪しを判断するかを決めました。ここが曖昧なままだと、動いているように見えて壊れている状態に気づけません。
研修中に実際の修正依頼を完了させたことで、終了時点で「翌営業日から同じやり方を続けられる」状態になりました。
その後 — 自分で対象を見つけられるところまで
最後に取り組んだのは、教えた作業をこなせるようにすることではなく、自動化できる対象を自分たちで見つけられるようにすることです。
支援の期間中に扱える課題の数には限りがあります。一方で、日常業務の中には同じ構造の作業がいくつも埋まっています。「これは同じやり方で片づく」と判断できるようになれば、支援が終わったあとも広がる余地が残ります。
成果
公式サイト保守の外注費が月額 30 万円から 0 円になりました。 年換算で約 360 万円の削減です。
ページの修正は学内で即日対応できるようになりました。 費用よりも現場で評価されたのはこちらでした。依頼して待つ工程がなくなったことで、気づいた時点で直せるようになっています。
AI の活用が当初の対象者を超えて広がりました。 支援対象は教職員 2 名でしたが、その後は事務職の担当者にも活用が広がっています。同じやり方が隣の席の業務にも当てはまる、という形で広がっています。
学びと再利用可能なナレッジ
研修の前に、環境整備をひとつの工程として置く
本事例で最も効いたのは、研修そのものよりも、その前段に置いた 2 週間の環境整備でした。
「AI を使えるようにする研修」を実施しても定着しない、という相談は少なくありません。原因が受講者のやる気や理解度にあるとは限りません。本事例で実際に効いたのは、環境が整っていたかどうかでした。整っていない環境で試すと失敗が続き、失敗が続くと手が止まります。
環境整備を研修の付帯作業ではなく独立した工程として見積もると、この問題は事前に回避できます。
題材は、実務からそのまま持ってくる
汎用の教材を使った研修は、その場では理解できても、翌日に自分の業務へ当てはめる段階でつまずきます。業務と教材のあいだの距離を、受講者自身が埋めなければならないためです。
実際の修正依頼を題材にすると、この距離がゼロになります。研修が終わった時点で成果物が 1 つ残っている状態は、定着の面でも、社内で成果を説明する面でも効きます。
内製化の線引きは、運用してから決まる
着手前に「どこまでを内製化するか」を厳密に決めようとすると、判断材料が足りずに議論が止まります。本事例では、まず日常の運用を担えるところまでを目標に置き、それを超える改修は引き続き相談する形にしました。
線引きは、実際に運用を回してみて「これは自分たちでやったほうが速い」「これは頼んだほうがいい」が分かってから決まります。
内製化が途中で止まる 3 つの原因
費用削減だけを目的にすると、途中で止まりやすい。 外注費の削減は分かりやすい指標ですが、内製化の初期は学習の時間が必要で、短期的には負担が増えます。待ち時間の解消という運用面の利点を最初に共有しておかないと、負担が増えた段階で「やはり外注のほうが安い」という結論になりがちです。
対象者を増やしすぎる。 本事例の対象は 2 名でした。一度に多人数へ広げると、環境の差や理解度の差を吸収しきれず、全員が中途半端な状態で終わります。少人数で確実に運用できる状態を作り、そこから広げるほうが結果的に速くなります。
引き継いだ後の相談先を決めておかない。 内製化した範囲を超える改修は必ず出てきます。そのときの相談先が決まっていないと、対応できない課題が放置され、時間が経つほどサイトの状態が悪化します。

