「社内で AI 研修をやりたい。ただ、この金額で稟議が通る気がしない」。AI 研修のご相談で最初に出てくるのは、研修の中身ではなく費用の話です。そこで候補に挙がるのが、厚生労働省の助成金です。
「AI 研修の補助金」という言葉で探されることもありますが、社内研修の費用に当たるのは 厚生労働省の人材開発支援助成金 です。AI 研修が該当しうるのは、そのなかの事業展開等リスキリング支援コースです。本記事では、自社が対象になるのか、いくら戻るのか、いつ動き出せば間に合うのかの 3 点に絞って整理します。
研修そのものの設計は 全社 AI リテラシー研修の設計 に、IT 導入補助金を含む制度全体の使い分けは 2026 年度の AI 開発・DX 関連補助金まとめ にまとめています。この記事は、研修の費用を助成金で賄えるかどうかの判定に絞ります。
注意
本記事の記載は、厚生労働省が公開している 支給要領 (令和 8 年 8 月 3 日付) と 案内リーフレット (令和 8 年 4 月 8 日付) を、2026 年 9 月時点で確認した内容です。この支給要領は、職業訓練実施計画届の提出日が令和 8 年 8 月 3 日以降のものに適用されます。助成金の要件・助成率・様式は改定されます。実際に申請する際は、厚生労働省または管轄の労働局で最新の内容を確認してください。
AI 研修に使えるのは人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コース
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に職業訓練を実施した場合に、訓練経費と訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。複数のコースに分かれており、AI 研修が該当しうるのは事業展開等リスキリング支援コースです。
このコースが AI 研修と噛み合うのは、対象となる訓練の類型に「企業内の DX 化を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識・技能の習得」が含まれるためです。生成 AI を業務に組み込むための研修は、この類型に沿って企画できます。
ただし、コース名に当てはまりそうだから対象になる、という制度ではありません。支給されるかどうかは、事業主・受講者・訓練内容の 3 か所すべてが条件を満たしているかで決まります。次の節で、その条件を 1 つずつ確認します。
自社が対象になるかを 5 つの条件で確認する
支給対象になるかどうかは、次の 5 点で判定できます。1 つでも欠けると対象になりません。
- 事業主が雇用保険適用事業所の事業主であること
- 受講する労働者が雇用保険被保険者であること
- 訓練時間数が 10 時間以上であること
- OFF-JT (企業の事業活動と区別して行われる訓練) であること
- 職務に関連した訓練であり、次の 3 類型のいずれかに該当すること
最後の職務関連性は、次の 3 つの類型のどれで申請するかを決めるところから始まります。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| i | 事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識および技能の習得 |
| ii | 企業内の DX 化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識・技能の習得 |
| iii | 企業内の人事および人材育成に関する計画に基づき、今後従事されることが予定される職務に必要な専門的な知識・技能の習得 |
社内の業務に生成 AI を組み込むための研修であれば、ii で組み立てるのが素直です。i を選ぶ場合、ここでいう「事業展開」は、訓練開始日から起算して 3 年以内に実施する予定のもの、または 6 か月以内に実施したものである必要があります。新規事業の構想が先にあるなら i、既存業務の進め方を変えるなら ii、という切り分けになります。
iii を選ぶ場合は、社内で計画を作れば済む話ではありません。中小企業は、人事および人材育成に関する計画について、あらかじめ認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があります (この確認は中小企業に限られます)。あわせて、対象労働者から訓練受講承諾書を取得します。確認を取る時間が別途かかるため、iii で申請するなら逆算のスケジュールも変わります。
要点
最初に確認すべきは訓練時間数です。10 時間に届かない企画は、内容がどれだけ職務に直結していても対象になりません。半日で終わる講演型のセミナーを想定していた場合、この時点で企画そのものを組み直すことになります。
5 条件を満たしても、内容によっては対象から外れる
見落としやすいのがここです。事業所と受講者の条件を満たしていても、**カリキュラムの中身によっては、その時間が助成の対象から外れます。**支給要領は、OFF-JT のうち助成対象とならないものを一覧で挙げています。
AI 研修を組むときに当たりやすいのは、次の 4 つです。
| 支給要領が挙げる類型 | 挙げられている例 | AI 研修で当たりやすい場面 |
|---|---|---|
| 職務に直接関連しない訓練 | 普通自動車運転免許の取得のための講習 | 受講者の職務と結びつかない、一般的な AI の解説 |
| 職種を問わず、職業人として共通して必要となるもの | 接遇・マナー講習等、社会人としての基礎的なスキル | 全社員に同じ内容を配る汎用リテラシー研修 |
| 通常の事業活動として遂行されるもの | 自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明、品質管理のマニュアル等の作成や改善 | 自社ツールの操作説明、業務マニュアルの作成・改善そのもの |
| 役職として求められる知識・技能 (下記 iii の類型で申請する場合に限る) | 管理職研修、マネジメント研修、リーダーシップ研修 | 人材育成計画に基づく、管理職向けの AI 研修 |
このほか、趣味教養を目的とするもの、意識改革研修・モラール向上研修、法令で事業主に実施が義務づけられているもの、資格試験や適性検査も対象になりません。こちらは類型を問わず対象外です。AI をテーマにしていても、狙いが意識づけであれば同じ扱いになります。
自社のデータや資料を演習の題材にする設計には、支給要領がただし書きを置いています。単に自社の業務上の情報を題材として取り上げる場合で、業務改善指導や事業活動における成果物の創出につながらないものは、対象外に該当しないとされています。ただしこれは事業外訓練 (外部の教育訓練機関に委託する形) の場合に限られます。例示は「自社の財務諸表を用いて財務分析の手法を学ぶ訓練」で、分析結果に基づいて経営改善計画を策定する場合は対象外、と書かれています。
つまり、自社の実務を教材にする研修でも、演習が成果物の作成そのものになると対象から外れます。手法を身につけるところまでにするか、成果物の作成は研修の外に置くか、設計の段階で切り分けておいてください。
4 行目の「役職として求められる知識・技能」だけは限定が付いていて、企業内の人事・人材育成に関する計画に基づき、今後従事することが予定される職務に必要な知識・技能を習得させる訓練 (後述する類型 iii) で申請する場合に限られます。DX 推進を理由とする類型 ii で申請するなら、この行は当たりません。
対象外の時間は、実訓練時間数から差し引かれる
重要なのは、対象外の内容が混ざったときの扱いです。支給要領は、カリキュラムの一部に対象とならない内容が含まれる場合、その時間は実訓練時間数に含めないとしています。
つまり、10 時間の研修のうち 3 時間が汎用リテラシーの解説だった場合、残るのは 7 時間です。10 時間以上という条件を満たさなくなり、研修全体が対象から外れます。
なお、10 時間の条件を満たしている場合の扱いは、経費と賃金で分かれます。支給要領は、実訓練時間数に含めない部分について、賃金助成は対象としない一方、経費助成は按分計算をせず、含めない部分も含めて対象とするとしています。削られるのは賃金助成のほうです。
注意
「AI 研修だから DX 推進に当たる」という説明だけでは足りません。受講者の職務に直接結びつく内容だけで 10 時間以上を確保する設計になっているかどうかが、実務上の分かれ目になります。カリキュラムの各コマが職務のどの作業に対応するかを、計画届の段階で説明できる形にしておいてください。
自社の企画が対象になるかの最終判断は管轄の労働局が行います。ここに挙げたのは判断の材料であって、結論ではありません。
いくら戻るのか|助成率と 1 人あたりの経費助成限度額
通常分の助成率と助成額は、企業規模で分かれています。
| 企業規模 | 経費助成 | 賃金助成 (1 人 1 時間) | 設備投資加算 (1 コースの一の導入費用あたり) |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 75% | 1,000 円 | 50% |
| 大企業 | 60% | 500 円 | - |
対象になる経費は限定されています。教育訓練機関に委託する場合、助成の対象は入学料・受講料・教科書代などのうち、あらかじめ受講案内等で定められているものです。旅費や食費は対象になりません。
経費助成には、受講者 1 人あたりの限度額があります。限度額は訓練時間で段階的に変わります。
| 企業規模 | 10 時間以上 100 時間未満 | 100 時間以上 200 時間未満 | 200 時間以上 |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 30 万円 | 40 万円 | 50 万円 |
| 大企業 | 20 万円 | 25 万円 | 30 万円 |
多くの AI 研修は 10 時間台から 20 時間台に収まるため、実務上は左端の列で考えることになります。中小企業なら、受講者 1 人につき経費助成は最大 30 万円です。
ここから、研修の規模を決めるときの目安が 1 つ導けます。助成率 75% で計算した額が限度額 30 万円に届くのは、受講者 1 人あたりの経費が 40 万円のときです。1 人あたり 40 万円を超えて設計すると、超えた部分は 75% の計算に乗らず、そのまま自社負担になります。逆に 1 人あたり 20 万円の設計なら、経費助成は 15 万円で限度額には当たりません。
言い換えると、1 人あたりの経費が 40 万円を超えた分は、助成の計算に乗りません。同じ総額を使うなら、対象者を広げて 1 人あたりを 40 万円以下に収めるほうが、助成金の観点では有利です。
設備投資加算の限度額は、支給対象労働者 1 人につき 15 万円です。支給対象労働者が 10 人以上の場合は、人数にかかわらず 150 万円になります。あわせて、1 事業所が 1 年度に受給できる助成額は 1 億円が上限です。
e ラーニング・定額制サービスを選ぶと賃金助成が付かない
研修形態の選択は、受け取れる助成額に直接効きます。e ラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練は経費助成のみが対象で、賃金助成は受けられません。経費助成の限度額も別に定められています。
| 訓練の形態 | 経費助成 | 賃金助成 | 経費助成の限度額 |
|---|---|---|---|
| e ラーニング・通信制・定額制以外の訓練 | 対象 | 対象 | 中小企業 30 万〜50 万円 (受講者 1 人あたり・訓練時間による) |
| e ラーニング・通信制 | 対象 | 対象外 | 中小企業 15 万円 / 大企業 10 万円 (1 つの職業訓練実施計画あたり) |
| 定額制サービス | 対象 | 対象外 | 受講者 1 人 1 月あたり 2 万円 |
この差は、研修サービスを比較するときの判断材料になります。単位が変わる点に注意してください。 通学制の 30 万〜50 万円は受講者 1 人あたりですが、e ラーニング・通信制の 15 万円は計画全体の上限で、訓練時間に応じた区分もありません。30 名が受講しても 15 万円です。1 人あたりに直すと 5,000 円で、桁がひとつ変わります。定額制サービスは受講者 1 人 1 月あたり 2 万円です。
FIXITe ラーニングのほうが安いんだから、結局そっちが得なんじゃないの?
Shiori整理すると、比べるのは受講料ではなく、受講料から助成額を引いた自社の負担額です。
FIXITえっ、じゃあ高いほうが安くなることもあるってこと?
Shiori賃金助成が付くかどうかで差が出ます。安いほうを選ぶ前に、両方で試算してください。
訓練開始日から逆算する|計画届は 6 か月前から 1 か月前まで
手続きは 4 段階です。提出期限が決まっているのは計画の提出と支給申請の 2 か所で、この 2 つが日程を縛ります。
flowchart LR
S0["Step 0<br/>職業能力開発推進者の選任<br/>事業内職業能力開発計画の策定・周知"]
S1["Step 1<br/>職業訓練実施計画を提出<br/>訓練開始日の 6 か月前〜1 か月前"]
S2["Step 2<br/>訓練の実施<br/>支給申請までに経費を全額支払う"]
S3["Step 3<br/>支給申請<br/>訓練終了日の翌日から 2 か月以内"]
S0 --> S1 --> S2 --> S3
Step 0 では、職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を策定して自社の労働者に周知します。研修の企画とは別に、社内で先に整えておく前提条件です。
Step 1 では、職業訓練実施計画を作成し、訓練開始日の 6 か月前から 1 か月前までの間に管轄の労働局へ提出します。所定の様式には職業訓練実施計画届・事業展開等実施計画・対象労働者一覧などがあり、添付書類として訓練内容を確認できるカリキュラムなどが必要です。
期限には上限と下限の両方がある点に注意してください。訓練開始日まで 1 か月を切っていると提出できず、6 か月より前に出すこともできません。「来月から研修を始めたい」という相談は、この時点で日程を後ろにずらすことになります。
カリキュラムを添付する以上、計画を出す時点で研修の中身は確定している必要があります。ベンダーの選定、プログラムの設計、見積もりの取得は、すべて計画提出より前に終わっていなければなりません。実施したい月から逆算すると、動き出しは 2 か月ほど手前が現実的です。
たとえば 12 月 1 日に研修を始めたい場合、労働局への提出期限は 11 月 1 日です。「1 か月前まで」は前月の月中どこでもよいという意味ではなく、訓練開始日の前月同日が締切です (支給要領は 7 月 1 日開始なら 6 月 1 日まで、7 月 31 日開始なら 6 月 30 日までと例示しています。同じ日が無い月は前日になります)。そこから逆算すると、10 月中にベンダーを決めてカリキュラムと見積もりを確定させ、社内では Step 0 の推進者選任と事業内職業能力開発計画の周知を並行して終わらせておく形になります。稟議の所要期間が読めない組織では、さらに手前から動かしてください。ここで挙げた社内側の日数は当社の実務上の目安であり、制度として定められた期限は計画提出と支給申請の 2 つだけです。
iii の類型で申請する場合は、認定経営革新等支援機関の確認を受ける時間がこの前段に加わります。確認にかかる期間は相手方の状況によって変わるため、日程を固める前に問い合わせておくと後戻りが減ります。
経費は先に全額支払う|支給は訓練が終わってから
Step 2 では、計画に基づいて訓練を実施します。ここで見落としやすいのが支払いの条件です。支給申請までに、訓練にかかった経費を全額支払っている必要があります。
Step 3 の支給申請は、訓練終了日の翌日から 2 か月以内に管轄の労働局へ行います。添付書類には、受講料などの支払いを証明する書類 (請求書と領収書、または振込通知書の写しなど) が必要です。
つまり資金の流れは、研修費用を自社で全額支払い、訓練を終え、支給申請を経て助成金を受け取る、という順番です。助成金を受け取ってから支払う組み方はできません。予算を確保する段階から、支払時期と入金時期がずれる前提で組んでください。
補足
費用の全額を自社が負担していることが、支払いの証明書類で確認されます。**受講料の一部でも受講者本人に負担させると、経費助成が受けられないだけでなく、他の要件を満たしていても賃金助成の対象になりません。**教育訓練機関の都合で受講者本人名義の支払いが必要になる場合は、立て替えた全額を本人に返金し、事業主が負担したことを明らかにします。
助成金を前提にすると、研修の選び方が変わる
ここまでの条件を並べると、助成金を使う前提で研修を選ぶときに見るべき点が絞られます。
- 訓練時間が 10 時間以上あるか。半日の講演型は対象外になる
- 集合形式か、e ラーニング・定額制か。賃金助成の有無がここで決まる
- カリキュラムが受講者の職務に関連しているか。汎用的な教養講座では類型に当てはめにくい
- 計画提出に間に合う日程か。締切は訓練開始日の前月同日
- カリキュラム・受講案内・見積もりなど、計画届の添付書類を提供してもらえるか
研修ベンダーへの問い合わせでは、価格と内容に加えて、この 5 点を最初に確認すると比較が早くなります。特に日程は、先方の空き状況ではなく計画提出の締切から決まります。
なお、対象になるかどうかの最終判断は管轄の労働局が行います。ベンダー側が「対象になります」と説明していても、それは自社の企画が承認されたことを意味しません。カリキュラムが固まった段階で、労働局に内容を持ち込んで確認してください。
FIXIT の AI 活用研修と、助成金を検討する場合の進め方
FIXIT の AI 活用研修 は、AI 駆動開発のクリエイティブスタジオとして日々プロダクトをつくっている実務者が登壇し、受講企業のリポジトリ・提案書・業務フローをそのまま教材にする形式です。費用は 90 万〜150 万円 (税抜) で、プログラムは 10〜12 時間の集合形式で構成しています。
助成金を検討される場合、ヒアリングの段階で実施可能な日程を逆算し、カリキュラム・受講案内・見積もりなど計画届に添付する書類をこちらで用意します。ただし、御社の企画が支給対象になるかどうかを当社が保証することはできません。判断するのは労働局であり、訓練内容と社内の要件によって結論が変わるためです。
研修を単発で終わらせないための設計や、受講後に使われ続ける状態をどう作るかは 全社 AI リテラシー研修の設計 と 従業員 AI 活用 経営者ガイド にまとめています。研修を全社導入の一部として位置づけるなら、あわせてお読みください。
まとめ|条件は 5 つ、動き出しは訓練開始の 2 か月ほど手前
AI 研修に助成金が使えるかどうかは、雇用保険適用事業所か、受講者が被保険者か、訓練が 10 時間以上か、OFF-JT か、職務に関連するか、の 5 点で判定できます。ここを満たしていれば、中小企業は経費の 75% と 1 人 1 時間あたり 1,000 円の賃金助成が視野に入ります。
判断を分けるのは研修形態です。e ラーニング・通信制・定額制サービスは経費助成のみで賃金助成が付かず、経費助成の限度額も下がります。受講料の安さではなく、受講料から助成額を引いた自社の負担額で比べてください。
そして日程です。職業訓練実施計画は訓練開始日の 6 か月前から 1 か月前までにしか出せません。カリキュラムを添付する必要があるため、ベンダー選定と設計はそれより前に終えている必要があります。実施したい月の 2 か月ほど手前が、動き出しの目安になります。
自社の企画が対象になるかどうかの確認先は、管轄の労働局です。制度の最新の要件は 厚生労働省の人材開発支援助成金のページ で確認してください。研修の中身と日程の組み方についてのご相談は お問い合わせ からお受けしています。

