結論|ライセンスが自由でも、置けるかは別問題

2026 年 8 月に、重みが公開されたモデルが立て続けに出ました。ライセンスはどれも緩く、MIT か Apache 2.0 です。法的には、商用利用も改変も自由に近い条件になります。

ただし「自社サーバーに置ける」かどうかは、まったく別の話でした。

モデルパラメータライセンス公式が示す実行環境手元に置けるか
DeepSeek-V4-Pro1.7 兆MIT4 基構成のデータセンターノード現実的でない
Muse Glimmer30BApache 2.0コンシューマ GPU 1 枚置ける
Qwen3.8-27B27BApache 2.0記載なし (量子化版が多数)置ける見込み

差は 3 桁あります。同じ「オープンウェイト」という一語で括ると、判断を誤ります。

8 月に公開されたもの

DeepSeek-V4-Pro — 1.7 兆パラメータが MIT で出た

DeepSeek がプレビュー版だった V4-Pro を正式版に上げ、同日に Hugging Face で重みを公開しました。モデルカードには 1.7T paramsMIT License が並んでいます。

MIT は制約がきわめて緩いライセンスです。この規模で採用された例は多くありません。

機能面では、タスクの複雑さに応じて推論量を切り替える仕組みが V4-Pro と V4-Flash に入りました。公式の記載は次のとおりです。

Flexible reasoning effort for V4-Pro & V4-Flash:
  low  — 簡単なタスク
  high — 日常のエージェント作業
  max  — 複雑なタスク

あわせて Native OpenAI Responses API support, optimized for Codex とされ、既存の OpenAI 互換クライアントから使いやすくなっています。料金体系も変わり、オフピーク時間帯はピーク時の半額になりました (2026 年 8 月 16 日 16:00 UTC から適用)。

ただし、モデルカードに載っている vLLM の実行例は single 4×GB300 node です。4 基構成のデータセンター向けノードが前提で、手元の GPU で動かす話ではありません。

Muse Glimmer — 30B を Apache 2.0 で、手元に置ける規模

Meta Superintelligence Labs が公開した 30B パラメータのモデルです。ライセンスは Apache 2.0。

注目したのはサイズの記載です。公式ブログは small enough to run on a Mac or PC with a single consumer GPU とし、量子化した状態で 20GB を下回るとしています。24GB から 32GB のメモリで動く範囲です。

用途は、ローカルのエージェントと関数呼び出し、ローカルでのコーディング、LLM-as-a-judge による評価が挙げられています。手元で完結させることを前提に設計されたモデルという位置づけです。

1 年以上クローズドモデル路線を続けていた Meta が、オープンに回帰した点でも報じられました。

Qwen3.8-27B — 予告どおり公開された

Alibaba の Qwen チームが、予告していた軽量版の重みを公開しました。27B の dense モデルで、ライセンスは Apache 2.0 です。

項目内容
パラメータ27B (dense、MoE ではない)
コンテキスト262,144 トークン (最大 100 万まで拡張可)
画像・動画ネイティブ対応
量子化版多数 (llama.cpp / LM Studio / Ollama 対応)

Qwen3.8-Max の記事で「オープンウェイトが出るかどうかが分かれ目」と書きましたが、その分かれ目を通過したことになります。

重みが出ていないもの

Z.ai の GLM-5.3 は、API と Coding Plan では提供が始まっていますが、重みの公開は安全性評価の完了後とされています。

自社に置く前提で比べるなら、現時点では土俵に乗りません。予告があるモデルを待つかどうかは、代替手段があるかで判断することになります。

「置ける」の基準を決める

ここからが本題です。ライセンスではなく、動かせるかで並べ直します。

VRAM の下限は計算できる

重みを載せるのに必要なメモリは、精度から逆算できます。bf16 は 1 パラメータあたり 2 バイトなので、パラメータ数 × 2 バイトが下限です。

モデルbf16FP8 (約 1/2)4 ビット (約 1/4)
Qwen3.8-27B約 54GB約 27GB約 14GB
Muse Glimmer 30B約 60GB約 30GB約 15GB
DeepSeek-V4-Pro約 3.4TB約 1.7TB約 850GB

これは重みだけの数字です。実際には KV キャッシュと実行時のオーバーヘッドが乗るので、余裕が要ります。

24GB のコンシューマ GPU に載るかどうかが、実務上の分かれ目になります。30B クラスは 4 ビットまで落とせば載り、Meta 自身が 20GB 未満と公表しています。1.7 兆は、4 ビットにしても 3 桁 GB です。

量子化で品質は変わる

精度を落とせばメモリは減りますが、出力の品質も変わりえます。下がり方はモデルとタスクによって違うので、一律には言えません。

判断の材料になるのは、ベンダー自身がどのサイズを前提に説明しているかです。Muse Glimmer のように量子化後のサイズを公式が出しているなら、その構成での利用が想定されていると読めます。採用前に、実際に使うタスクで比べてください。

GPU を借りるといくらかかるか

自社に置くと決めても、GPU の費用は消えません。ここは直前まで検証していたので、実測値があります。

項目実測
48GB クラスの GPU (Pod)1 時間あたり 1 ドル前後
24GB クラス (Serverless)1 時間あたり 1.10 ドル
34.7GB のイメージ取得12 分 (キャッシュがない場合)
暖まっている状態での応答1 秒未満

この数字から見えるのは、稼働率で損益が入れ替わるということです。

使い方月額の目安
1 日 8 時間だけ起動約 240 ドル
24 時間起動しっぱなし約 700 ドル超

使う時だけ起動すれば安く済みます。ただしその場合、起動のたびにモデルの読み込みが発生します。 手元では 34.7GB の取得に 12 分かかりました。常時応答が求められる用途では、この待ち時間を避けるために起動したままにすることになり、費用が跳ね上がります。

「オープンウェイトだから安い」は成立しません。 安くなるのは、稼働率が低いか、逆に十分高くて商用 API の従量課金を上回る場合です。

FIXITFIXIT

無料で配ってるモデルなのに、動かすと月 700 ドルかかるの?

DodaiDodai

ゼロなのは重みの利用料だけです。電気と GPU は誰かが払います。

FIXITFIXIT
じゃあ何のためにオープンなの?
DodaiDodai

データを外に出さずに済みます。提供元の都合で止まることもありません。

FIXITFIXIT
安くなるからじゃないんだ。
DodaiDodai
安さで選ぶと事故ります。まず稼働率を出してください。

3 モデルを置けるかで並べ直す

ライセンスではなく、動かせるかで整理します。

モデル手元の GPU 1 枚48GB クラス 1 枚データセンター構成
Qwen3.8-27B量子化で可bf16 でも可不要
Muse Glimmer 30B量子化で可bf16 は要検討不要
DeepSeek-V4-Pro不可不可必須

DeepSeek-V4-Pro を使いたい場合、現実的な選択肢は API 経由になります。MIT ライセンスの意味は、この規模では「自社で動かせる」ことではなく、「誰でもホスティングできる」ことです。 提供元が 1 社に固定されないという価値であって、手元に置ける話ではありません。

選定の判断軸

以上を踏まえると、順序はこうなります。

1. 重みが公開されているか。 されていなければ、自社設置の検討対象になりません。

2. 使う GPU に載るか。 パラメータ数 × 2 バイトを起点に、量子化でどこまで落とせるかを見ます。

3. その量子化で品質が足りるか。 実際のタスクで比べます。ここは公表値では判断できません。

4. 稼働率はどれくらいか。 常時起動が必要なら、商用 API との比較をやり直してください。

5. そもそも自社に置く理由があるか。 外部にデータを出せない制約があるなら理由になります。既に商用 API で足りているなら、置き換える動機は薄いはずです。

まとめ

論点結論
ライセンスMIT・Apache 2.0 は法的な自由。動かせるかとは無関係
規模の壁30B 前後なら手元に載る。1 兆超はデータセンター構成が要る
VRAM の見積もりパラメータ数 × 2 バイトが bf16 の下限
費用48GB クラスで 1 時間 1 ドル前後。常時起動で月 700 ドル超
未公開モデル比較の土俵に乗らない

8 月に出た 3 本のうち、自社サーバーに置く現実的な候補は Muse Glimmer と Qwen3.8-27B の 2 本です。DeepSeek-V4-Pro は規模が違い、API か外部ホスティング経由で使うものと考えたほうが実態に合います。

なお、ここで挙げた費用はすべて GPU を借りたときの実測に基づきます。自社でハードウェアを保有する場合は、初期費用と運用の手間が別途かかるため、同じ計算にはなりません。