何が出たのか
2026 年 9 月 22 日、Xiaomi が 公式アップデートページ (Update Time September 22, 2026。タイムゾーンの記載はありません) で、オープンウェイトの新モデル群 MiMo-V2.6 を公開しました。ページに並んでいるのは次の 3 つです。
mimo-v2.6-pro: "Our most powerful flagship reasoning model — omni-modal, ultra-high performance, trillion-parameter"(最上位のフラグシップ推論モデル。全モダリティ対応・超高性能・兆パラメータ級)mimo-v2.6-flash: "Full-modality, high-intelligence, low-cost reasoning model — the best balance for high-frequency calls"(全モダリティ対応で高性能・低コストな推論モデル。高頻度呼び出しに最もバランスが良い)mimo-v2.6-pro-ultraspeed: "Flagship V2.6-Pro performance, up to 20x faster"(フラグシップ Pro と同等の性能を、最大 20 倍速く)
公開時に Hugging Face に上がったリポジトリは XiaomiMiMo/MiMo-V2.6-Pro-RL・XiaomiMiMo/MiMo-V2.6-Flash-RL・XiaomiMiMo/MiMo-V2.6-Distill-Qwen-9B の 3 つで、いずれも License 欄は素の mit です。9 月 27 日には、Pro-RL・Flash-RL のツール呼び出しの繰り返しを抑えた改良版 MiMo-V2.6-Pro-MOPD・MiMo-V2.6-Flash-MOPD も追加されました (License 欄は同じく mit)。Modified MIT のような追加条件の記載は見当たりません (詳細は後段のライセンス比較で扱います)。
補足
Pro-UltraSpeed には Hugging Face のリポジトリがありません。重みが別途公開された 4 つ目のモデルではなく、Pro の速度最適化バリアントとみられます。Xiaomi が明示的に「重みは公開しない」と述べているわけではないため、この解釈は公式ページの記述からの推測にとどまります。
本記事では、Pro・Flash・Distill-Qwen-9B の 3 モデルを対象に (MOPD 版は対象外)、仕様・ベンチマーク・ライセンス・自社ホストの現実性・料金を一次情報 (Xiaomi 公式ページ、Hugging Face の各モデルカード README) で整理します。オープンウェイトモデルの自社ホストの見積もり方は オープンウェイト 3 モデル比較 で確立した考え方をそのまま使います。
Pro / Flash / Distill-Qwen-9B の違い — サイズと想定用途
3 モデルの仕様を Hugging Face README だけを出典に整理します。
| 観点 | Pro | Flash | Distill-Qwen-9B |
|---|---|---|---|
| 構成 | Sparse MoE | Sparse MoE | Dense (Qwen3.5-9B の SFT) |
| 総パラメータ | 1.02 兆 | 309B | 9B |
| アクティブパラメータ | 42B | 15B | 9B (全パラメータ) |
| 層構成 | 70 層 (60 SWA + 10 GA)、隠れ次元 6,144 | 48 層 (39 SWA + 9 GA) | ― |
| ルーティング | 384 専門家中 8 個活性化 | 256 専門家中 8 個活性化 | ― |
| モダリティ | テキスト・画像・動画・音声のネイティブ omnimodal | 同左 | 画像・テキスト (image-text-to-text) |
| コンテキスト長 | 100 万トークン | 100 万トークン | 記載なし |
| 最大出力 | 128K トークン | 128K トークン | 記載なし |
| 対応実行環境 | SGLang・vLLM 等 (大規模クラスタ前提) | 同左 | SGLang (README の起動例。量子化版はコミュニティが公開) |
Pro には 681M パラメータの Vision Encoder (MiMo ViT、28 層) と、308M の AudioTokenizer + 127M の音声パッチエンコーダが組み合わされています。Flash も同じ Vision/Audio Encoder 構成で、両モデルとも 5 層の Multi-Token Prediction によるスペキュレイティブデコーディングに対応しています。
想定用途は 3 モデルとも README の記載が共通しており、コーディング・一般エージェント・ビジュアルエージェント・サイバーセキュリティの 4 領域です。Distill-Qwen-9B だけが「a 9B agentic model developed by Xiaomi MiMo through supervised fine-tuning of Qwen3.5-9B on MiMo-generated data」と説明され、MiMo が生成したデータで Qwen3.5-9B を追加学習した位置づけになっています。
ベンチマークで示された立ち位置 — 「Claude Opus 5 と同等」の中身
Hugging Face の MiMo-V2.6-Pro-RL README には、Pro・Flash・前世代の V2.5 Pro に加えて、Claude Opus 5・GPT-5.6 Sol・Claude Fable 5 との比較表が載っています。ここでは確認できた項目だけを並べます。
| ベンチマーク | Pro | Flash | V2.5 Pro | Opus 5 | GPT-5.6 Sol | Fable 5 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| DeepSWE v1.1 (コードエージェント) | 71.9 | 67.9 | 19.0 | 74.0 | 73.0 | 70.0 |
| MiMo Code Bench | 63.2 | 61.2 | 40.4 | 68.6 | 59.3 | ― |
| AutomationBench v1.0.6 (一般エージェント) | 53.1 | 52.3 | 16.0 | 50.3 | 45.8 | 46.2 |
| Toolathlon-Verified | 76.9 | 73.6 | 49.1 | 80.6 | 74.9 | 77.9 |
| OSWorld-Verified | 82.0 | 80.8 | ― | 83.4 | 83.0 | 86.0 |
| MiMo VisualCoding (ビジュアルエージェント) | 72.3 | 71.5 | ― | 70.0 | 73.4 | 69.1 |
読み方は 2 つあります。1 つは、AutomationBench や MiMo VisualCoding のように Pro が Opus 5 を上回る項目がある一方、Toolathlon-Verified や OSWorld-Verified では Opus 5 がやや上回ることです。「Claude Opus 5 と同等」という要約は、この項目ごとの凹凸を均した言い方だと理解しておくのが実務的です。
もう 1 つは、セキュリティ系ベンチマークで Flash が Pro を上回る逆転です。
| ベンチマーク | Pro | Flash | V2.5 Pro |
|---|---|---|---|
| CyberGym | 94.0 | 95.1 | 40.0 |
| MiMo Cyber Bench | 80.2 | 77.2 | 0.0 |
CyberGym では Flash (95.1) が Pro (94.0) をわずかに上回っています。総パラメータの大きいモデルが常に高得点になるわけではない、という点は覚えておく価値があります。
要点
ベンチマークは Xiaomi 自身が選んだ条件・比較対象での測定です。自社のコードベースやタスクでの差は、これだけでは分かりません。候補入りの根拠として使い、決め手にはしないのが実務的です。
コーディングエージェント向けに設計されている理由
MiMo-V2.6 の README には、コーディング・エージェント用途を意識した強化学習 (RL) の設計が明記されています。骨子は次の 2 点です。
- 非同期グループ相対方策最適化による大規模 RL。 1,568 のプロンプトに対して、それぞれ 16 のロールアウト (生成試行) を走らせる規模で学習しています
- タスク固有ルーブリックでのグループ単位の採点。 単一の正解ラベルではなく、タスクごとに定めた評価基準 (ルーブリック) でグループ単位に採点する方式です
長時間の自律タスクを想定したコーディングエージェント・一般エージェント・ビジュアルエージェントという想定用途は、この RL 設計と対応関係にあります。README に書かれている範囲を超える学習データや評価環境の詳細は公開されていないため、本記事でもその範囲でのみ説明します。
ライセンスは本当に自由か — Kimi K3・Qwen3.8-Max との違い
「オープンウェイト = MIT ライセンス」と一括りにされがちですが、直近の大型オープンウェイトモデルを並べると、名前が似ていても中身は違います。
| モデル | Hugging Face の License 欄 | 著作権表示 | 主な追加条件 | 社内利用 |
|---|---|---|---|---|
| MiMo-V2.6 (Pro / Flash / Distill-Qwen-9B) | mit | 必要 | 記載なし | ― |
| Kimi K3 | kimi-k3 | 必要 | 年間集約収益 2,000 万ドル超の Model as a Service 事業は Moonshot AI との別途契約が必須。月間アクティブユーザー 1 億以上または月間収益 2,000 万ドル以上の商用製品では「Kimi K3」の表示義務 | 対象外 |
| Qwen3.8-Max | qwen3.8-max | 必要 | 月間アクティブユーザー 1 億超または月次収益 2,000 万ドル超の商用製品ではモデル名の表示義務。API/エンドポイント経由で第三者提供し、過去 12 か月の累積収益が 5,000 万ドル超の Model as a Service / AI アシスタント事業は別途ライセンス取得が必須 | 対象外 |
MiMo-V2.6 は 3 モデルとも、Hugging Face のライセンス表記が素の mit で、上記のような収益・MAU のしきい値や、製品名の表示義務の記載は見当たりません (MIT として著作権表示・許諾表示の同梱は必要です)。Kimi K3 と Qwen3.8-Max は、それぞれ独自のライセンス条項を持つ点に注意が必要です。どちらも、追加条件の対象になるのは一定規模を超える商用利用で、社内利用 (外部提供しない自社内での利用) は対象から外れている点は共通しています。
FIXITMIT ならもう好きに使っていいってことでしょ?
Dodai3 モデルとも Hugging Face の License 欄は素の mit です。追加条件はなく、著作権表示の同梱だけ必要です。
FIXITKimi K3 とかは違うの?
Dodaiはい。Kimi K3 も Qwen3.8-Max も、収益や MAU のしきい値付きの独自ライセンスです。
注意
以上はライセンス文書を読んだ整理で、法的助言ではありません。ライセンスは改定されうるため、商用導入の判断は Hugging Face の原文を都度確認し、法務にも通してください。
自社の GPU・クラウドで動かせるか — 3 モデルの現実的な規模
オープンウェイト 3 モデル比較 で確立した見積もり方 (bf16 ≈ パラメータ数 × 2 バイト) をそのまま当てはめます。
| モデル | 総パラメータ | bf16 の下限 | 公式デプロイ例 | 自社ホストの現実性 |
|---|---|---|---|---|
| Pro | 1.02 兆 | 2TB 超 | SGLang --tp 16 --dp 2 --ep 16 --enable-dp-attention --moe-a2a-backend deepep / vLLM --tensor-parallel-size 8 | データセンター前提 |
| Flash | 309B | 600GB 超 | vLLM --tensor-parallel-size 4 --gpu-memory-utilization 0.95 | データセンター前提 |
| Distill-Qwen-9B | 9B | 約 18GB | SGLang (GPU 枚数の指定なし) | 個人・小規模チームでも視野 |
Pro の公式例は SGLang で --tp 16 (16 GPU 規模)、vLLM で --tensor-parallel-size 8 (8 GPU 規模)、Flash の vLLM の例は --tensor-parallel-size 4 (4 GPU 規模) です。「オープンウェイトだから誰でも動かせる」ではありません。 Pro と Flash は「選択肢として持つ」対象、Distill-Qwen-9B だけが「実際に動かす」対象になりうる、というのが規模から見た切り分けです。量子化すれば Distill-Qwen-9B の要件はさらに下がりますが、量子化後の具体的な GB 数は一次情報に記載がなく、本記事では扱いません。
FIXITオープンウェイトなら Pro も自分で動かせるの?
Dodai1.02 兆パラメータです。bf16 で 2TB 超になります。
FIXIT普通の GPU じゃ無理ってこと?
Dodai無理です。公式の例も 8〜16 GPU 規模で、動くのは Distill-Qwen-9B だけです。
料金・使い方 — API / Hugging Face / OpenRouter / デスクトップアプリ
mimo.mi.com 公式モデルページの料金は次のとおりです (100 万トークンあたり)。
| モデル | 入力 (キャッシュミス) | 入力 (キャッシュヒット) | 出力 |
|---|---|---|---|
| Pro | $0.435 | $0.0036 | $0.87 |
| Flash | $0.14 | $0.0028 | $0.28 |
どちらも "OpenAI and Anthropic protocols" 互換、コンテキスト 100 万トークン・最大出力 128K トークンです。Kimi K3 の料金 (入力 $3.00・出力 $15.00) と並べると、Pro の単価はおおむね 1 桁安い水準にあります。
使い始める経路は 4 つあります。
| 経路 | 内容 |
|---|---|
| API (mimo.mi.com) | OpenAI 互換・Anthropic 互換のどちらのリクエスト形式でも呼び出せます |
| Hugging Face | 3 モデルのモデルカードから重みを取得し、自社の GPU・クラウドでホストします |
| OpenRouter | サードパーティ経由の利用経路です |
| MiMo デスクトップアプリ | Windows・Apple Silicon Mac 向けに提供されています |
まず API で使用感を確かめ、機密データを外部に送れない業務や、コスト構造を大きく変えたい場面でだけ自社ホストを検討する、という順序が手戻りの少ない進め方です。複数の LLM ベンダーを実運用に組み込む体制づくりは、AI 開発ツール定着支援 で支援しています。
中国製モデルを業務で使う前に整理すること
技術評価が優れていても、業務利用では情報管理・法務観点の整理を先に済ませておく必要があります。Kimi K3 とは で整理した 4 点は、MiMo-V2.6 にもそのまま当てはまります。
- API 利用時のデータ取り扱い — 入力データが学習に使われるか、ログの保管場所と保管期間
- NDA との整合 — 顧客との NDA に「第三者クラウドへの入力可否」や「生成 AI への入力の扱い」の条項があるか
- 準拠法とデータローカリティ — 契約の準拠法、データの物理保管場所
- オープンウェイト自社ホスト時の閉じた環境設計 — 外部通信を絞る運用にできるか
MiMo-V2.6 固有の論点として、CyberGym や MiMo Cyber Bench といったセキュリティ系ベンチマークのスコアの高さがあります。「セキュリティ検証に使えるほど強いモデルを、自社のセキュリティ運用でどう位置づけるか」という新しい話題を生みますが、その技術的な意味を検証したシステムカード等の一次情報は確認できていません。本記事では、この点は詳細な技術検証の対象外として扱います。「中国製だから」の一括判断ではなく、運用の中で安全に使う設計を先に組んでから業務投入する順序が実務的です。
直近のオープンウェイト勢との位置づけ — Kimi K3・Qwen3.8-Max
2026 年は大型オープンウェイトモデルの発表が続いています。発表日・重み公開・ライセンスの 3 点で並べます (重みの公開状況は 2026-09-28 時点で Hugging Face を確認した内容です)。
| モデル | 発表日 | 重みの公開 | Hugging Face の License 欄 |
|---|---|---|---|
| MiMo-V2.6 | 2026-09-22 | 発表と同時に Pro・Flash・Distill-Qwen-9B の 3 モデルとも公開 | mit |
| Kimi K3 | 2026-07-16 | 予告どおり公開済み | kimi-k3 (MIT をベースにした修正版) |
| Qwen3.8-Max | 2026-08-03 | 2.4T のチェックポイントを公開済み | qwen3.8-max (独自ライセンス) |
規模で見ると、Kimi K3 (総 2.8 兆) と Qwen3.8-Max (総 2.4 兆) はどちらも Pro (総 1.02 兆) より大きい構成です。規模が大きいことと、ライセンスが自由であることは別の軸という点は、前段の比較表のとおりです。すでに Kimi K3・Qwen3.8-Max を評価済みなら、MiMo-V2.6 を追加で評価する動機は「ライセンスの制約を減らしたいか」「コーディング・エージェント用途で API コストを下げたいか」のどちらかに当てはまるかで判断できます。
まとめ — 今すぐ何を判断すればいいか
2026-09-28 時点で確認できた範囲を整理すると、判断材料は次の 3 点に絞れます。
- Distill-Qwen-9B は自社評価の候補に入れられる規模です。 bf16 で約 18GB、個人・小規模チームの GPU でも視野に入ります
- Pro・Flash は選択肢として持つ対象で、自社ホストは現実的ではありません。 公式デプロイ例も 4〜16 GPU 規模のデータセンター前提です
- ライセンスは素の
mitで、Kimi K3・Qwen3.8-Max より制約が少ない状態です。 ただし改定されうるため、商用導入前には都度原文を確認してください
MiMo-V2.6 が既存の選定を全面的に置き換えるほどの違いかどうかは、自社のコーディングエージェント用途で API コストを大きく下げたいか、ライセンスの制約を今より減らしたいか、という具体的な条件次第です。「新しいから」だけで乗り換えを急ぐ理由はありません。モデル選定・情報管理・体制づくりまで含めて相談したい場合は、AI 開発ツール定着支援 や お問い合わせ からご連絡ください。



