2026 年 10 月 13 日、SB Intuitions が国産生成 AI「Sarashina」の無償ベータを始めました。Google アカウントでログインすれば、申し込みなしで API とチャットを使えます。
日本語に強い API を無料で触れる機会は貴重です。一方で、無料のサービスには、レート制限、終了時期、データの扱いという条件が付きます。この記事では、SB Intuitions のプレスリリースと関連する公式ページに書かれていることだけを整理します。API の呼び出し方やレート制限の数値のように、参照した公式ページで確認できなかった情報は、書かれていないものとして扱います。
この記事は、公式の発表と公式ブログの記載にもとづく整理です。FIXIT が無償ベータを実際に試した結果ではありません。
FIXIT国産の LLM が無料で使えるって、すぐ業務に入れていいの?
Tsumiki発表を読むと、そこは慎重に見たほうがいいです。レート制限があり、終了時期も未定です。
FIXITえっ、それだけ?ほかにも気をつけることがあるの?
Tsumiki利用データを品質向上に使う場合がある、と書かれています。入れるデータは先に決めましょう。
Sarashina 無償ベータとは何か
SB Intuitions のプレスリリースによると、無償ベータは 2026 年 10 月 13 日 (火) に提供が始まりました。発表の内容を整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 発表の記載 |
|---|---|
| 提供開始日 | 2026 年 10 月 13 日 |
| 入口 | サービスページ (sarashina.ai)。Google アカウントでログインできる |
| 申し込み | 事前の申し込みは不要 |
| 料金 | 無料 |
| レート制限 | あり。一定時間あたりのリクエスト数の上限。具体的な数値の記載は無い |
| 終了時期 | 未定 |
| 利用データ | 品質向上・改善のために活用する場合がある |
| 規約・ポリシー | サービスページ内に掲載 |
入口は 1 つで、利用規約とプライバシーポリシーもサービスページの中に置かれています。プレスリリース自体には、API ドキュメントや規約への個別のリンクがありません。使い始める前に、サービスページで規約を開いて読む手順が要ります。
使える 6 モデルの役割
API で使えるのは、Sarashina3 シリーズの 6 モデルです。モデルの説明は、2026 年 6 月 30 日のプレスリリースと、translate の公式ブログにもとづいています。
| モデル | 役割 |
|---|---|
| mini | 速度と性能のバランスをとった標準モデル。文章生成・対話に使う |
| nano | 軽量で低コストなモデル。大量の単純タスクを高速に処理する |
| embedding | 文章をベクトルに変換し、RAG の検索に使う |
| rerank | 検索で見つけた候補を、関連度の順に並べ替える |
| guard | 入力テキストが安全か有害かを判定する |
| translate | 日英・英日の翻訳に特化したモデル |
チャット機能で試せるのは、対話と翻訳です。embedding・rerank・guard は、API から使うモデルになります。
6 月 30 日の発表には、モデルごとの特徴も書かれています。
- mini は、外部の API を自分で呼び出すエージェントの機能に対応し、数学的な推論とコード生成に強みがあるとされています
- nano は、データの分類や情報抽出のような、大量の定型タスクを想定しています
- guard は、有害と判定したときに、該当する有害カテゴリのコードも返します
- embedding は 7 種類のタスクタイプを切り替えられ、ベクトルの次元を切り詰めても出力が崩れにくいとされています
- rerank は日本語の指示を受け付け、5 種類のタスクタイプがあり、RAG の精度向上を想定しています
事前学習には、日本語と英語を中心に 30T トークンを超える高品質なデータを使ったと書かれています。ただし、いずれのモデルについても、発表にパラメータ数の記載はありません。
RAG を組むなら、embedding と rerank を組み合わせる構成が自然に浮かびます。RAG の設計そのものは RAG 構築の実践ガイドで整理しています。
無償ベータと Cloud PF Type A の違い
6 月 30 日の発表は、Sarashina3 シリーズを SoftBank のソブリンクラウド「Cloud PF Type A」で、そのサービスの契約者向けに提供し始めた、という内容でした。無償ベータは、それとは別の入口です。
SoftBank の案内ページには、有償の提供形態が 2 つ書かれています。
| 提供形態 | 課金 | 位置づけ | 案内ページに書かれたモデル |
|---|---|---|---|
| On-Demand | 従量課金 | PoC・検証・小規模導入向けの共有型 | mini・nano・guard・embedding・rerank |
| Dedicated | 月額固定 | 本番・大規模利用向けの専有型 | mini・nano |
価格と提供条件は、案内ページから問い合わせフォームで相談する形です。最低利用期間も、契約条件やプランによって異なると書かれています。
案内ページの On-Demand と Dedicated の欄に、translate の記載はありません。記載が無いことは、提供されていないことを意味しません。有償側で translate を使いたい場合は、問い合わせで確かめてください。
ここで押さえたいのは、無償ベータの条件を、本番運用の前提にしないことです。レート制限があり、終了時期も決まっていないサービスに、業務の本番を載せるのは危険です。無償ベータは、品質を確かめるための場所と考えるのが現実的です。
試す前に決めること
無料で試すときに、先に決めておきたいことは 3 つあります。
1. 入れてよいデータの線引き
発表には、AI モデルおよびサービスの品質向上・改善を目的として、利用データを活用する場合がある、という趣旨の記載があります。入力したデータが、モデルの改善に使われる可能性があるということです。
利用規約とプライバシーポリシーの本文は、サービスページ内にあります。この記事の執筆時点では、サービスページの本文を取得できず、規約の中身は確認できていません。利用データの範囲、保存期間、オプトアウトの有無は、規約を自分で読んで確かめてください。
確認が済むまでは、入れるデータを次のように分けておくと安全です。
- 入れてよいもの: 公開済みの文書、ダミーのデータ、自社の公開ページの文章
- 確認が済むまで入れないもの: 顧客情報、個人情報、契約書、社外秘の資料、ソースコード
2. 何を確かめるか
無料で触れる間に、自分たちの用途で確かめたいことを先に書き出します。たとえば次のような項目です。
- 自社の文書の翻訳が、実用の水準に届くか (translate)
- 自社の文書を検索したとき、期待する文書が上位に出るか (embedding・rerank)
- 入力文の安全性判定が、自社の基準に合うか (guard)
- 大量の定型タスクの処理に、軽量なモデルで足りるか (nano)
評価に使う文書は、先に 20〜30 件ほど選んでおくと、比較が楽になります。同じ文書を、いま使っているモデルにも通して、結果を並べます。
3. ベータが終わったときの備え
終了時期は未定です。終了や制限の変更があっても困らないよう、無償ベータの API を呼ぶ処理は、差し替えられる形にしておきます。モデル名や接続先を設定に切り出しておくだけでも、乗り換えの手間は小さくなります。
FIXITじゃあ、無料のうちに何を決めておけばいいの?
Tsumiki入れてよいデータと、確かめたい用途です。評価に使う文書を先に選んでおくと迷いません。
公式に書かれていないこと
発表や関連ページを読んで、書かれていないと確認したことを並べます。書かれていないことは、「できる」とも「できない」とも書きません。
| 知りたいこと | 参照した公式ページの記載 |
|---|---|
| レート制限の具体的な数値 | 記載なし。制限があることだけが書かれている |
| ベータの終了日 | 未定と書かれている |
| API の接続先・認証方法・モデル ID | プレスリリースに記載なし |
| 各モデルのパラメータ数 | 6 月 30 日の発表に記載なし |
| 利用データの範囲・保存期間・拒否の方法 | 規約本文は未確認。プレスリリースには記載なし |
| 入力できる長さの上限 | プレスリリースに記載なし |
| 無償ベータの SLA (稼働率の保証) | プレスリリースに記載なし |
「記載なし」は、公式の発表で確認できなかったという意味です。サービスページの中には書かれているかもしれません。記事を書いた時点では、サービスページの本文を取得できませんでした。使い始める前に、サービスページの案内で最新の内容を確かめてください。
translate の評価結果をどう読むか
翻訳専用の translate は、公式ブログに評価結果が載っています。数字を見るときは、評価の条件を先に押さえる必要があります。
ブログによると、translate は日英・英日の翻訳に特化したモデルで、比較の相手は Google Cloud Translation API (Advanced) と、Preferred Networks の plamo-2-translate です。自動評価には WMT2024 の機械翻訳評価データ (997 文) が使われています。LLM によるペアワイズ評価の判定には、GPT-5-mini が使われました。
Google との比較を見ると、評価の方法によって結果が分かれます。
| 評価の方法 | 英日 | 日英 |
|---|---|---|
| LLM のペアワイズ (勝 / 負 / 引分) | Sarashina3 376 / 325 / 296 | Sarashina3 342 / 298 / 357 |
| 人手のペアワイズ (Sarashina3 の勝 / Google の勝 / 引分) | 236 / 213 / 21 | 199 / 214 / 77 |
LLM の判定では、英日・日英とも Sarashina3 の勝ちが Google の勝ちを上回りました。人手の評価では、英日は Sarashina3 が上回り、日英は Google が 214 勝で、Sarashina3 の 199 勝を上回っています。人手の評価は、自動評価の WMT2024 データとは異なり、社内の評価者が独自に作成した入力文を使っています。評価者は 5 名で、英日が各 94 件、日英が各 98 件です。
BLEU・chrF・COMET のような自動評価の指標は、英日・日英とも Google の数字が高くなっています。
結論として、公式の評価では、Google 翻訳より上とも下とも言い切れません。自動評価は WMT2024 のデータ、人手評価は独自に作成した入力文による結果です。自社の契約書や技術文書で試した結果ではありません。自社の文書で同じ結果になる保証はないので、無料で触れる間に、自社の文書を数十件通して比べるのが確実です。
FIXIT の運用 — 国産 LLM を試すときの進め方
AI を業務に入れる相談では、モデルの優劣より先に、入れてよいデータと、確かめたい用途の線引きを決める進め方を勧めています。
無償のサービスで試すときは、公開済みのデータで始めて、規約の確認が済んだものから範囲を広げます。評価は、いまの運用と同じ入力を新しいモデルにも通し、結果を並べて判断します。試した結果が良くても、本番の前に、有償の提供の条件とレート制限の扱いを確かめます。
PoC の進め方は AI エージェント PoC の進め方にまとめています。AI エージェントの考え方は AI エージェントとはで整理しています。
まとめ
Sarashina の無償ベータは、国産モデルの日本語品質を、申し込みなしで確かめられる入口です。
- 2026 年 10 月 13 日に開始。Google アカウントでログインでき、無料
- Sarashina3 の 6 モデルを API で使える。チャットで試せるのは対話と翻訳
- レート制限の数値と終了時期は、発表に書かれていない
- 利用データを品質向上に使う場合があるため、規約を読み、入れるデータを決めてから使う
- 本番の利用は、有償の Cloud PF Type A 側の条件を別に確かめる
次の一歩は、サービスページで規約を読み、公開済みの文書で 20〜30 件の評価セットを作ることです。国産モデルを業務に組み込む設計や PoC の進め方で迷う場合は、AI エージェント開発のページも参考にしてください。個別の相談はお問い合わせから受け付けています。



